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撮影という行為は、子供時代、スリリングにはじまった。
父の一眼レフ。当時、カメラはモノスゴク高価なもので、「撮りたいなら大切に使え」などと言ってもらえるようなモノではなかった。つまり13歳の私にとって、こっそり持ち出す以外、撮影に至る手だてはなかった。

カメラを手にすると、私が見ている世界や時間は、写真に置き換わっていった。
植物、虫、動物、風景、クラスメイト。撮っては現像、撮っては現像。それは実験のように繰り返された。その過程で父所有の写真に関する本も役に立った。学校の漢字テストは惨敗に明け暮れたが、被写界深度や相反則不軌なる漢字は読み・書き・理解ともOKだった。
現像にかかる費用は、家業のシルクスクリーン製作を手伝うことで賄った。子供ながらにお金を得る以上は、責任を持って「きちんと丁寧な仕事」をしなければならないということを体で学んだ。

秘密裏に行っているつもりの撮影だったが、何度もバレ、その度に怒られた。
我が家では、「子供の可能性を伸ばすためなら、例え高価な道具でも買い与える」という「ゆとり教育」は実践されなかった。中学の運動会や遠足、旅行などのスナップ撮影を私が行うことを、学校は歓迎してくれたが、父は自分のカメラを勝手に使われることを許容する筈もなく、これまた内緒で借り、怒られた。
高校生になった私は、カメラを買うために写真館でアルバイトを始め、カメラ拝借攻防戦に終止符が打たれた。Myカメラがどれほど自由とエネルギーをくれたか。

時々、若い人から「カメラマンになるには、どんな努力をすればよいですか?」と尋ねられ、正直、答えに困る。「おたまじゃくしは、どんな努力をしてカエルになるのでしょうか?」とこちらが聞き返したくなる。
写真を撮るのは好きじゃないけど努力してカメラマンになった、というのも聞いたことがない。要は、どれくらい高い純度で写真が好きかということでしかないような気がする。

好きになれば好きになるほど、撮れば撮るほど、深みと極みにはまっていくのが写真だ。
自分が描き出したいイメージと実際に上がった写真のギャップを、本気で偽りなく埋めようとすれば、自然と技術は身につく。現状のライティング装置では作り出せない光が必要なら、それさえも自分で作ろうと思う。仮に描きたかったイメージとほぼ同一に写真が再現され他人が褒めてくれたとしても、自分は騙せない。それが陳腐なものに写れば、感性の乏しさを思い知らされる。

精一杯やっているつもりでも、「ベスト」なんてない。
現状自分が「ベスト」だと思っていることは、実は今の自分の「限界」だったりする。昨日より今日、今日より明日、とコツコツ続けていく以外限界値は上がらない。写真の神さまは遠い。

若い人からの問いには、こう応えておこう。
写真に対して、ちっぽけな自分などを打ち捨ててクレイジーと言われるほどに狂うことができれば、努力などという言葉で美化された邪念なしにカメラマンになることができる、と。

さて、ここには、まだ駆け出しのカメラマンだった頃のスナップ写真も多く掲載した。
シャッターを切った瞬間、時は過去となり人の記憶も色褪せるが、写真は“その時"を永遠に定着させている。古い写真を眺めていると、薄らいでいた記憶が懐かしく蘇ってくるだけでなく、時間の経過と共に以前とは違う、見え方、見方、感じ方をするのがおもしろい。

ただ昔の写真の中に、そうした心の動きをシャットアウトしてしまう一枚が。ある日を境に、言葉では言いようもない意味を持ってしまった一枚の写真。載せるかどうか迷ったが、掲載することで平和を祈りたい。

この写真には説明は要らないであろう。もし若い人で分からなかったとしてもそれは仕方の無い事だ。

好きで就いたカメラマンという仕事だが、フォトグラファーというのは個人プレイで自由に広告写真を創り上げている訳ではない。
広告には広告の目的があり、ビジュアル戦略、制作コンセプト、デザインも絡む。クライアントやアートディレクター、デザイナーなど様々なスタッフとの協力作業で広告を作り上げることに醍醐味もあるが、挫折や迷いもある。徹夜が続くこともフラストレーションが貯まることもある。そんな張りつめた自分を救ってくれるのがスナップ写真だ。

誰かのためではなく自分の思うままに写真を撮る。ある時は人物、またある時は自然風景だったり都市風景、感じるままに静かにシャッターを切りフィルムと記憶に納める。
たまの休みにあてもなくカメラを持って出掛けてシャッターを切ると、荒んだ心が穏やかな状態に戻っていくのがわかる。30年前に野原で写真を撮っていた子供の頃と、あまり変わっていない自分が笑える。


最後、スナップ撮影でよくうける質問にお応えします

「写真を上手く撮るコツ」についてです。
露出やピントなどカメラの技術的なことはもちろんですが、被写体と関わる上で一番大事なのは、被写体との距離です。
よくカメラの書籍に「広角レンズの使い方」「望遠レンズの使い方」なる記事を見ますが、広角レンズを使うか、望遠レンズを使用するかは、被写体との距離を決めた上で写したい範囲がどの範囲かを決めれば、使用するレンズの焦点距離が決まります。
写真撮影は、レンズの作例を作っているわけではありません。ズームレンズが普及し、カメラを構えてズームリングを回せば被写体に近づいたり離れたり自在に構図を変えることができますが、写真を上手く撮れるようになりたいのであれば、まずは被写体との距離を意識して撮影してみてください。



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